アメリカ大学入試において標準テストとしてSATやACTがありますが、パンデミックを契機にこれらの標準テストは任意となってきました。しかし、ここ最近になり、標準テストのスコアの提出を必須とする変更の動きが出てきています。
SATを条件とすべきか否か、は、イデオロギー的な問題も背景にあり、アメリカでは熱く議論されています。まだ流動的な状況ですが、現在の状況についてご紹介します。
最初に方針変更したのはMIT
まず、MITがパンデミック以後初めて、スコア提出をオプショナルから必須とするように変更しました。以降、Georgetown University、 Brown University、Dartmouth College、Yale University、Harvard、Stanford Universityなどが標準テストを必須とするよう方針を変更しました。この顔ぶれをみると、トップ校ばかりが必須に変更していることがわかります。
2024年6月現在、2300校ほどある大学のうち、1900校ほどがテストは任意、80校ほどが、スコアは提出されたとしても考慮しない、という方針をとっているようです。(FairTest)
必須に戻した理由
MITは、スコア提出を必須と変更した際に、その理由として、MITでの調査の結果、スコアが入学後の学業の成功を予測する重要な指標であるとわかったからである、といことを明らかにしています。
MITにおける過去15年間にわたる調査の結果、低いテストスコアにもかかわらず合格となった学生たちは、入学後の成績があまり芳しくなかったそうです。
標準テストは裕福な生徒に有利?
標準テストが喧々諤々と議論されるのは、いくつかの理由がありますが、その一つは、標準テストは裕福な家庭の生徒にとり有利であり、スコア偏重はDisadvantagedの家庭の生徒に不利となる、というものでした。
つまり、レベルの高い高校に通っていれば、当然学力もあがり高いスコアをとりやすいでしょう。また、学校だけでなく、受験準備のための予備校や、個別にチューターをつけるなどする生徒も多くいます。これらの要素を考えると、えてして経済的に裕福な家の生徒が有利であり、その結果、合格者に人種の偏りが出るという批判がずっとあるのです。
実際に、SATのスコアの高さと家庭の裕福度に相関性があるという調査結果は多く出されています。
標準テストの方が公平?
一方で標準テストの方が公平なのではないか、という考え方もあります。
大学入試で学業以外に重要な要素となる課外活動などの方が、現実的には経済力が物を言います。特別なプログラムに参加するのも費用がかかります。海外での経験となるとなおさらです。また、スポーツに打ち込むにもトレーニングや用具、遠征にお金がかかります。楽器もレッスン費用がかかります。もちろんこういった活動にも援助プログラムは多くありますが、経済力が大きく影響するのは間違いないでしょう。
もし、スコアを全ての学生が提出しない場合は、高校の成績のみで学力を評価し、あとは課外活動やエッセイで評価することになります。そうすると、前述したように、課外活動はお金がかるので、Disadvantagedの家庭にむしろ不利になるという意見もあります。
従って、むしろ標準テストの方がたとえ経済的に裕福でない家庭の生徒であっても、あまり費用をかけずに努力する方法はあり、むしろ公平で、高い学力を持つことを示すことができる、という見方です。
ダイバーシティ
実際、標準テストを必須に戻してから入学したMITのクラスは、約30%が黒人またはラテン系です。学生のNon Whiteの割合は50%以上、約20%がペルグラント(米国最大の連邦財政援助プログラム)を受けている学生とのことで、人種的にも経済的にも多様なクラス構成になっているとのことです。
Dartmouthでも、スコア提出を必須とすることを発表した際に、スコアが多様な学生を選ぶことに貢献すること、入学後の生徒のパフォーマンスを予測する研究結果を丁寧に述べています。(→ご興味があればこちら参照のこと)
このように、スコアを要件とするよう戻した大学の主要な理由は、大きく二つ、「入学後のパフォーマンスが良い」「より多様性ある生徒を構成することができる」というものです。
一方で、Stanfordはダイバーシティについては理由として挙げていなかったところは注目されます。
2023年に最高裁は、大学入試におけるアファーマティブアクションは違法と判断し、人種を入学審査の際に考慮することは憲法違反となり大きな波紋をよびました。そのような事情も、人種の多様性について大学側がセンシティブになっている要因の一つと考えられます。
学力の指標として有用
トップレベルの大学の受験生たちは、高校で良い成績を得ようと必死ですから、ほとんどオールAに近い成績の生徒ばかりが受験してくるわけです。そうすると、高校の成績だけでは、学力面では甲乙つけられなくなってきます。そこで、標準テストのスコアがあると、学校としても判断しやすい、ということになります。
MITの入学審査官も、標準テストを必須に戻した後に、「Aだけを基準にクラスを編成することはできない。Aを取る学生が多すぎて、彼らがMITの学業に対応できることを示しているかどうか判断できない。しかし、成績と標準化テスト、その他の応募要素を組み合わせ、経済的逆境を克服した学生や、SATで優秀な成績を収めた学生も評価することで、多様でありながらアカデミック面で非常に準備が整ったクラスを構成することができた。」と述べています。
また、有名高校で毎年その高校からの出願者も多い、となると大学側もその高校のコース内容やレベルを周知しているので、その生徒のアカデミックレベルがどのようなものかは把握できます。しかし、大学側があまり知らない高校からの出願者ですと高校の成績だけでは、実際のレベルを知ることは困難です。そんな時にも、標準テストは学力を知ることに有効だという訳です。
それでもまだテストを任意としている理由は?
まだ様子見というのが大きいのだとは思いますが、それぞれの大学の立ち位置によって異なるのでしょう。
トップレベルの学校では、スコア提出を任意としてから、とりあえず出願しようという生徒も増え、多すぎる志願者の中からスクリーニングすることが大変困難になったという現実もあります。
そこでスコア提出を必須とすると、スコアが振るわないと思った生徒は出願しなくなります。
これは、志願者が多すぎるトップレベルの大学ですと効率的になるのですが、なるべく多くの生徒を集めたい少しランクの下がる大学は、スコアを必須にする必要はないことになります。もともと志願者も比較的少ないので、スコア以外の部分をじっくり評価したい、ということです。
ただ、これは心理戦なのですが、スコアを任意にすると、逆に自分のスコアは低いと思って、出さなかったために、スコア以外のところで評価すべきところがあったのに、評価されなかった、という現象も起こっているようです。これは、とくに黒人層などマイノリティー層で起こっているというデータがあります。スコア提出に費用がかかることも影響しているのかもしれません。
スコアの評価の仕方
どのようにスコアを評価するかは学校ごとにより異なっています。その内幕はブラックボックスなのですが、Yaleがかなり丁寧にスコアをどう扱うかを述べています。
Yaleのアドミッションによると、足切り点というものはなく、あくまで判断材料の一つのピースにしか過ぎないと言っています。また、点数はレンジで評価するので、ちょっとの高い、低いは全く関係ない、と言っています。
大事なのは、受験生それぞれのコンテクストの中でどうアピールするかということ、とも述べています。たとえば、二人の同じスコアの志願者がいるとして、一人はトップレベルの私立校、もう一人はあまり良い学区でない公立高、だとすると後者が高く評価されるわけです。
さらに、Yaleでは、テストスコアをとるのに、くれぐれも時間をかけすぎないようにとも言っています。ちょっとの高い、低いに差は生じないのだから、テスト勉強よりも自分のアピールポイントとなるべきものを頑張るべき、と言っています。
課外活動、スポーツ、など自分が他にも頑張っていることがある中でのテストスコアであり、スコアだけ良くて他は何もない、というのは評価されません。
また、必須といっても各校方針が少しずつ異なります。
MIT、Harvard、DartmouthなどはSATまたはACTいずれかのスコアを提出しなければなりません。Yaleは、SAT, ACT, AP, IBのいずれかの提出です。ですから、APのスコアを提出したらSATは提出しなくてもよいのです。
APやIBで試験を頑張った生徒がSATも、となると大変ですし、学力を判断する材料が欲しい、という意味ではとても合理的で好感度の高い措置だと感じます。
SAT/ACT受験は必要か。日本の学生はどうするべき?
以上の流れからすると、もし、日本の高校に通っている場合は、日本の高校のアカデミックレベルについて米国大学は把握しきれていないケースが多いので、アカデミックレベルを示すために標準テストのスコアを示すことは大変有効でしょう。
SAT/ACTをめぐる動きはしばらくは流動的だと思いますが、特にトップレベルの学校は必須要件となる傾向であるということは頭にいれつつ、しかし、そればかりではなく、自分の全体のストーリーをつくり、それを最大化するようにテストスコアのピースをいれていくことを考える必要があります。どのピースをどこまで強調するか、すなわち力を注ぐか、ということを考える必要があります。
また動きがありましたら随時お知らせしたいと思います。
IESでは、生徒様のご興味特性に応じて、ストーリーを策定し、長い時間をかけて、課外活動の積み上げをし、プロフィールを作りあげていきます。
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