APとは?
アメリカの大学入試の際によく聞くAPテスト。
日本では、インターナショナルスクールなどでは提供されているものの、良く知らないという方が多いので、どういうものなのか知りたい、という方のために、概要をご紹介します。
AP(Advanced Placement)とは、ネーミングの通り、ハイレベルな内容を扱うコースのことで、大学の単位として認められる=大学の初歩レベルの内容を取り扱うプログラムのことです。
一般的には、高校で提供されるAPコースを履修し、学年末にAPの試験を受けてスコアをとる、というものですが、APコースを履修せず自習して試験のみ受ける、ということもできます。
APのスコアを取得することによる直接的なメリットは以下となります。
大学の単位:
APスコアを取得することで大学の単位として認められると、大学を早く卒業し、授業料を節約することができる。
アドバンスト・プレースメント:
APスコアを取得することで、大学入学後、入門コースを飛ばして、より上級のコースに進むことができる。それにより、大学でより高い専門性を得ることができる。
APはそれぞれの学校が勝手に標榜しているものではなく、SSATも管轄する米国の非営利組織であるカレッジボードが、APコースのカリキュラム、試験の開発を行い、世界中でAP試験を実施しています。
APの歴史
APの歴史は意外にも長く、1952年からスタートしていました。冷戦が始まりかけていた頃、ソ連に対抗すべく優勝な高校生たちを養成すべくつくられたのが最初のきっかけのようです。ちなみにイギリスのAレベルも同じころにスタートしています。
APが始まって以来、70年近くかけ、形態は変遷してきたようですが、当初は限られた本当に優秀な高校生向けであったのが、少しずつ普及し、特に近年はAPをとる学生数が爆発的に増えてきました。
APの流れ
APコース内容は、前述の通り、大学の初歩レベルなのですが、高校側でカレッジボードが定めるAPコースの基準を満たすようカリキュラムを設計し、その内容がカレッジボードにより認定されると、晴れてAPコースとして高校で科目として提供されます。
生徒は、いきなりAPコースを受けることはできず、まずは初級コースの履修条件などがあります。
そして、一般的には、高校生たちはAPコースを履修し、コースが終了した後5月に開催されるAP試験を受けます。
なお、大学の単位として認定してもらいたい場合は、このAP試験を受けなければなりませんが、高校の単位として認められればよいだけであれば、試験を受ける必要はありません。APコース受講したものの、AP試験を受けなかった場合は、コースの内容により加重された成績を得ることができるのでGPAが良くなります。
また、冒頭に述べたように、必ずしもAPコースを履修しなくても、AP試験を受けることが可能です。アメリカでは相当数のホームスクール生がいます。また、自分がとりたい科目のAPが提供されていないというケースあるので、そのような生徒達もAPスコアを取る機会が確保されているのです。
カレッジボードによると、ほとんどの大学のアドミッションオフィスでは、志願者を評価する際にAPを考慮するそうです。そして、アドミッションオフィスの3分の2は、APは非常に有益な指標だと考えいているということです。
コース内容
先にも少し触れましたが、コースのシラバスは、カレッジボードが一律に決めているわけではないのですが、APコースとして認められるため、大学レベルの教育基準を満たすようにするガイドラインがあります。それらの条件を満たすよう、それぞれの学校の先生がシラバスを作ります。
そして、カレッジボードにより、コース内容が審査され、OKがでると、APコースとして生徒たちに提供することができます。
現在は、あらゆる分野にわたり38種類のコースを提供しているようです。
スコア
AP試験は1から5のスケールで採点されます。大学により異なりますが、多くの大学では、3以上のスコアに対して単位やアドバンスト・プレースメントを認めているようです。
ちなみに、カレッジボードによると、2023年のAP試験の平均スコアは2.96でした。そして、試験総数の60%以上が3以上のスコアでした。
激増するAP取得者
College Boardによると、2008年から2018年までの10年間で、AP試験を受けたアメリカの公立高校卒業生の数は65%増加し、少なくとも1つのAP試験でスコア3以上を取得した卒業生の数は63%増加したということです。
2022年には、全米の高校の86%ぐらいの学校で少なくとも一つ以上のAPプログラムが提供されているということです。
そして、2023年の高校卒業生の約35%が少なくとも1つのAP試験を受けたということです。
APが人気な理由
前述の通り、APの本来の目的は、優秀な高校生たちにより高度なプログラムを提供して大学でさらに高度なことを学ぶ橋渡し的な役割をもたせるものでした。
それが、近年、APをとる学生が爆発的に増えた背景には、大学の単位として認められたいというニーズの他に、APのスコアをとったということ自体が、大学入試における強力なアピール材料としても機能するというところにもあります。APを取ること自体が、その生徒のモチベーションが高く、難易度の高い内容にも取り組む力があることの証明となるからです。
また、APコースは、チャレンジングな内容となっていますので、そのコースを履修することで、生徒は単位認定といってメリットの他に、下記のような実質的なメリットがるということも言われています。
大学での授業がどのようなものか雰囲気を知ることができる
タイムマネジメント、クリティカル・シンキング、ライティングなど、大学レベルで必要なスキルを得ることができる
深く学ぶことで新たな興味が湧いたりすることで、専攻の可能性が広がる
GPAが上がる
現状では、アメリカの高校では、APコースの提供に力をいれていますし、生徒たちもなるべくAPをとろうとするようです。
College Boardの思惑?
しかし、この激増の背景には、カレッジボードによる必死の普及活動が背景にあるようです。SSATも管轄するカレッジボードですが、大学入試におけるSSATの採用も必須でなくなってきた時代、SSATからの収入が激減した分、APで収益を得ようとしているのではないか、という話もあるようです。
しかし、College BoardもAPを良くしようとする努力は続けています。時代のニーズにあったカリキュラム内容に変遷させたり、科目数も新設しています。また、APを一部の優秀な高校生だけを対象とするのではなく、貧困層も高度な勉強ができる機会が持たせようと努力している側面もあり、そのような教育格差をなくそうとする動きはアメリカ全体で考えれば貢献は大きいのではないかと考えられます。
APはもう古い?
その人気ぶりの一方で、APのスコア偏重の風潮にも反発感が広がっているようです。AP試験がある5月に向けて3月頃から試験準備を始めるのですが、数年かけて受験勉強をするアジア人からしたらなんてことなさそうですが、試験慣れしていないアメリカ人高校生にとっては、そのストレスは並大抵ではありません。確かに、これだと、机上の試験勉強になってしまいかねず、本当に生徒の為になっているのか、という意見も出てきているようです。
このような流れの中、一部の学校では、それまでAPを提供していたにもかかわらず、APをとりやめる動きもでてきているようです。
APコースは、先生がシラバスを設計できることになっているものの、APとして認められるための要件があるので、自由なコース設計ができないという側面があり、より自由に教えたいことを教えたいという考えを持つ学校がでてきたのです。
特にトップレベルの私立校で、その動きがあります。優秀な先生に加え優秀な生徒が集まっていたら、その先生の力量でいかようにも授業を設計する方が面白いかもしれません。せっかくの私立校なのですから。
しかし、まだこの動きは一部に限られています。なぜなら、APをやめてそれにかわる独自のアドバンスドコースを設置するには、学校側にその力量が必要とされます。また、その高校独自のコースが実際にどのようなレベルのものか大学にはわかりにくいので、例えばExeterやChote Rosemary Hallといったトップ校だとHonorsクラスがAPコース同程度にアドバンスドであるということは大学側も認識してくれるでしょうが、そこまででない学校だと、その学校のHonorsクラスを大学に評価してもらうという手間がかかります。
また、APをとりやめた学校でも、独自のHonors CourseでAP試験に対応できることは標榜していますし、生徒がAP試験を受験することは想定された体制はとられているようです。
ですから、APはまだまだ健在ですし、高校側もいくつAPコースを提供しているか、を売りの一つとするわけです。
従って、APをめぐる状況は流動的ですが、いいとこどりをして、自分の状況に応じて戦略的に上手く利用するのがよいでしょう。
日本の高校生はどうするべき?
では、APへのアクセスが限られている日本人高校生はどうしたらよいのでしょうか。
大学入試においては、審査官たちも、生徒によって環境が異なることはわかっていますので、その環境それぞれでできることをやればよいという考えです。
例えば学校の学業成績は絶対に良い成績をキープする、ということは基本です。そして、その上で、もし興味がある分野があれば例えば大学で高校生向けの講座もたまにイベントでやっていますので、そういうのを探して受講してみる、という方法も考えられます。
前述のように、APは自習して試験を受けることもできるので、本当に好きな科目があればそれにチャレンジすれば、同じスコアでもアメリカ人以上に強力なアピール材料となることでしょう。
自分の置かれた環境で、最大限に努力する。それがその生徒の底力と高いモチベーションをあらわします。そのあたりが、APをとるとらないにかかわらず、審査官に評価されるポイントです。
わかりやすい数字にあらわれた指標だけでなく、その見えない部分を評価してくれるアドミッションオフィサーに、評価してもらいたいものです。
進化し続けるAP、一方で、賛否両論あるAP。状況は流動的ですのでまた動きがあれば随時情報をアップデートしたいと思います。ご参考になれば幸いです。
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