寄宿舎がある学校、と聞くと映画や小説で読んだような昔ながらの様々な偏見があるかもしれません。
超上流階級の家庭の子供が行くのでは?
普通の学校はドロップアウトしたような子がいくのでは?
先生もとても厳格で、生活が厳しく管理されているのでは?…などなど。
もちろん大昔はそのような側面もありました。しかし、ボーディングスクールも時代にあわせて変遷してきたのです。
当記事ではアメリカのボーディングスクールの歴史とよくある誤解についてご紹介します。
目次:
ボーディングスクールの歴史
アメリカでは、イギリス植民地時代の終わりごろに寮を擁する今の形のボーディングスクールができはじめました。
最も古いボーディングスクールは、メリーランド州にあるWest Nottingham Academyです。それに続き、ペンシルバニアの女子校であるLinden HallやマサチューセッツにあるGovernor’s Academyが設立されました。
そして、アメリカ独立後に、現在の代表的なボーディングスクールであり、いわゆるTen SchoolsといわれるPhillips Academy, Phillips Exeter, Deerfieldなどが続々と設立されました。
そして、南北戦争後に、新たに富裕層になった家庭の子女たちの教育需要が高まりました。そのような家庭は、イギリス式の教育を重んじたため、イギリスのボーディングスクールを模倣したボーディングスクールが続々と設立されました。
その名残として、学年を通常の“grade”と呼ばず、イギリス式に、“Form”と呼ぶ学校がまだ多くあります。すなわち、下記のような感じです。
3rd Form: 9th Grade (Freshman year)
4th Form: 10th Grade (Sophomore year)
5th Form: 11th Grade (Junior year)
6th Form: 12th Grade (Senior year)
この頃は、上流階級であるWASPがその子息を送り込んで教育する学校であり、他の階級や異なる人種の生徒が入ることはありませんでした。そして、当時は、卒業生のほとんどがハーバードをはじめとするアイビーリーグに入学していたようです。
しかし、1900年ごろになって、それまでと異なった革新的なボーディングスクールも設立されるようになりました。PutneyやBuxtonなどです。またカトリック系の学校も設立されました。
そして、第二次世界大戦後は、中流階級の急成長により、中流階級からも多く大学に進学するようになったことや、人権運動によりアフリカ系アメリカ人たちも大学に進学するよういにな変化に対応するように、多くのボーディングスクールが男子校、女子校を合併させて共学化されました。
Choate Rosemary Hall, Northfield Mount Hermon, Loomis Chaffeeなどです。
また相当数の留学生も集めるようになり、現在のボーディングスクールにとって、留学生は重要な存在となっています。
インターナショナルな環境を経験できるというのは、米国人の学生にとっては魅力的な材料となります。
留学生の存在がグローバルな視点をもたらすメリットがある一方で、あまりにも留学生が多すぎると、本来はアメリカ人のための、アメリカの学校としてのアイデンティティをどう維持していくか、ということも課題となっています。
簡単ではありますが、ざっとボーディングスクールの歴史をご紹介しました。
このように時代とともにボーディングスクールが変遷してきたことはおわかりになったかと思います。
ボーディングスクールに対するよくある誤解
それでもボーディングスクールをご存知ない方によく聞かれる、ボーディングスクールに対する誤解をご紹介します。
ボーディングスクールは、お金持ちの家の子がいくところ?
かつては、確かに裕福で歴史ある家庭の子女たちが行く場所でしたが、近年は全校生徒のうち70%は何らかの奨学金(Financial Aid)を得ています。成功している学校では奨学金のプールが潤沢にある場合が多いです。
従って、アメリカ人生徒たちは、割と普通の家庭の生徒たちも多くいます。ボーディングスクールではなく一般の私立学校では、収入が高いということで奨学金が出なかったケースでも、ボーディングスクールでは奨学金が出る例もあるようです。
ただし、留学生はたいていこの奨学金を受けることは難しいのが現状です。
ボーディングスクールは多様性がない
これも、ボーディングスクールが設立され始めた200年ほど前はそういう状況で、いわゆるWASPのみの世界でした。現在はもはやそうではなく、むしろとても多様性に満ちています。
大学同様、ボーディングスクールは多様性をとても重視しており、多くの学校では、非白人の生徒は平均的に40%~50%はいる状況となっています。
ボーディングスクールはとても冷徹な厳しい教育をしている
これも大昔の話です。かつて英国のボーディングスクールをモデルとしていた時代は、厳格な教育が行われていましたが、現在では、生徒たちの心身の健康を大事にし、学業面だけでなく人格面、肉体的にも健全、健康に成長することをサポートしています。アドバイザー制度をはじめ複数の大人が生徒を見守り、生徒は学業だけでなく、生活全般、個人的なことまで何でも相談することができます。確かに学業はハードですが、スポーツがとても奨励され、週末には多くのイベントが行われるなど、オンとオフを使いわけて充実して楽しい生活が送れるようになっています。
名門ボーディングスクールに入れば確実にアイビーリーグの大学に入学できる
これもかつての話です。トップスクールのほとんどの学生がアイビーリーグに行っていましたが、これは、ボーディングスクールに行ったから、ではなく、むしろ家族のつながりによるところが多いともいえます。
少し前までは、ボーディングスクールのカレッジカウンセラーがアイビーリーグでも、大学に電話するだけで、合格が決まる、ということもあったようですが、もはやそういう時代でもなくなりました。
トップの大学では受験の競争が激化していること、また大学側がダイバーシティを重視しているため、同じ高校からあまりに多くの学生をとることをしなくなったためです。そういう意味ではトップの高校にいればいるほどある意味厳しい競争があるということになります。トップのボーディングスクールに通っているということだけでは、トップの大学に合格することはできません。
ボーディングスクールは不良や問題ある生徒がいくとろだ
ボーディングスクールのなかでも矯正的な役割を持つ学校もあります。しかし、一般的なボーディングスクールは、他でもご説明したように、大学進学のためのプレップスクールです。
ボーディングスクールは伝統にこだわり時代遅れの教育を行っている
これはむしろ全く逆で、歴史的にも最先端の教育に果敢に取り組んできました。共通テストである、APテストやSATなどの創設にも深く関与しています。また、対話型の授業も積極的に取り入れられています。Exeterでは、Harknessスタイルという楕円型のテーブルに少人数の生徒が座り対る形の授業が始められ、今では多くの学校で取り入れられています。
まとめ
現代のボーディングスクールでは、厳しい学業でありつつも、楽しいイベントも多く開催し、オンとオフをしっかり使い分け、メンター制度も充実させることで、心身の健全な発達も充分にケアする全人教育を行っています。
そして現在では、必ずしも限られた家庭の子供たちだけでなく、国内・国外に門戸を広く開け、最先端の教育を追求する場となっているのです。
どの学校も素晴らしい環境と教育プログラムを持っていますが、学校により雰囲気の差はもちろんあり、特色も異なりますので、よくリサーチしてご自分やお子様にあった学校を選ぶことが大切です。